MRのタッチパッド活用

 少し前のニュースですが、大塚製薬が全MRにiPadを支給して情報提供に活用すると言うニュースが話題になりました。
大塚製薬 6/7ニュースリリース抜粋:大塚製薬株式会社はIryou情報提供ツールとして「iPad〓」を1,300台導入し、全MR(医薬情報担当者:1070名)に配布します。対面での医療関係者向けの製品説明用資料やMRの自己学習用の教材として、アジア諸国、北米、欧州に展開する大塚製薬の社員をネットワーク化し、常にアップデートされた最新情報の携帯が可能になります。

 そんな中、アストラゼネカ(以下AZ)の(iPadではない)タッチパネル式ノートPCを全MR配布という発表がありました。
 話題性ということだけであれば、二番煎じであり、まだiPadに匹敵するレベルのハードウェア・ソフトウェアがない時点での他社品ということで、微妙な話題ではあるのですが、アストラゼネカメールマガジン会員でたまに(失礼)読んでいることもあり、少し気にかかりましたので、なぜ、そういう事になったのかをネット情報で数十分でわかる範囲で調べてみました。誤謬がありましたらご容赦ください。

 7/7プレスリリース抜粋:AZはタッチパネル式ノートPCを活用したディテーリングシステムを本年6月にプライマリーケア事業本部のMR全員に導入しました。また、本システムの導入にあたり、各支店・分室のITインフラの整備への投資も行い、最新情報をタイムリーに更新できる基盤を確立しました。
アストラゼネカ、プライマリーケア事業本部のMR全員にタッチパネル式PCを導入し、医師のニーズに的確に対応する双方向ディテーリングを実現>>アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区代表取締役社長:加藤 益弘)はタッチパネル式ノートPCを活用したディテーリングシステムを本年6月にプライマリーケア事業本部のMR全員に導入しました。また、本システムの導入にあたり、各支店・分室のITインフラの整備への投資も行い、最新情報をタイムリーに更新できる基盤を確立しました。本システムは、タッチパネル式PCの特性を活かし、医師とMRとの双方向のディスカッションをサポートします。最近話題のiPadでも可能な資料のページめくりや動画機能に加え、本システムではタブレットペンを使用して、動きのあるディテーリングスライドを次々と表示したり、医師のニーズに合わせてカスタマイズしたストーリーを作成したり、PC画面への直接書き込みも出来ます。また、動画やVTRなどのコンテンツを立ち上げ、必要な情報を的確に提供するなどインパクトのあるディテーリングを可能にします。現在では、一方的なディテーリングから多様化する医師のニーズに対応できるフレキシブルなディテーリングスタイルが求められるようになってきています。本システムは、MRのディテーリングインパクトを高めるだけでなく、様々な医師のニーズに対応するディテーリングを可能にする画期的なシステムであると考えています。当社は、医療や製品に関する質の高い情報を、さまざまなITテクノロジーを駆使することも含め医療従事者に対して効果的かつ効率的に提供することが、医薬品の適正使用を推進し、患者さんに貢献していく上で極めて重要であると考えています。提供する情報の質はもとより、情報提供の手法やコミュニケーションスタイルについても更なる改善を目指しており、今回の新システムの本格導入は、非常に有益であると確信しています。

◆AZについて
基本情報

・親会社 AstraZeneca PLC:従業員 約62,000名(グループ全体)
             :売上高328億100万ドル(2009年実績)

・従業員 約3,000名 (2010年4月1日現在)
・売上高 2,071億円 (2009年度日本法人決算)
・売上比率(2009年)
  プライマリーケア42%
   循環器 20%:テノーミン、クレストール等
   消火器 17%:オメプラール
   呼吸器  4%:パルミコート等
   中枢神経 1%:ゾーミッグ
 オンコロジー・麻酔クリティカルケア58%
 (前立腺がんで全体の33%を占めるので、AZにおけるカソデックス、ゾラデックスの重要性が際立ちます)

CSR
  C-day(高齢化する村を応援するプロジェクト) や患者図書室プロジェクトなど、事業と関連がある具体的な活動をしていることが伺えます。また、日本には研究拠点がないこともあり、VRIという研究助成事業をしていて、2007年には20箇所各200万円の研究助成金を送ったとあります。日本市場は営業市場であり、その(イメージアップ)サポートとなる投資は惜しまないという姿勢を感じます。

・AZ従業員の声 http://careerconnection.jp/review/kutikomiList.html?corpSeq=15257#link3
(壱)元従業員:ドクターと接する仕事なので、忙しい時間帯を避けて自分自身でタイムスケジュールを取りながら行動するのは難しいが、それでもドクターと話せる時間は本当に少ない。効率よく話を進めて、即座にドクターの質問にも答えられるぐらい勉強をしないといけないのは骨が折れるが、製品を使ってもらえるとやはり嬉しい。
 MRの本音というところでしょうか。比較的特徴ある商品が豊富な医療用医薬品がある会社なので、やりがいを持って仕事をしていることが伺えます。
 そして、「ドクターの忙しい時間を避けるスケジューリング」「即座に答えられるくらいの勉強」にiPad的な端末が役立つことは容易に想像できます。
(弐)現従業員:言う事の聞かないやつは消えていき、ゴマすり上手な人間が経営に入っていく。=だんだん会社がひどくなるというイメージが、最近目に見えて分かる。完全にトップダウンの企業風土、使えないやつは辞めさせる、言うことを聞かないやつは辞めさせる・・。ただ、外人副社長の入社後、少し雰囲気が変わった感じがする。光が見えてきたかもしれない。
 この外人副社長は、10/4/1 就任 マーク・マロン 代表取締役上級副社長(最高執行責任者)の事を指し、会社の変化を従業員に伝え、モチベーションアップにつなげる効果も今回のプレスリリースは期待できそうです。

 調べてみると、AZでは、以下のプレスリリースを2008年9月に出しています。

アストラゼネカ、新しいディテーリングシステムを導入〜日本初の画期的なシステムで活動の効率と質の向上を目指す〜
アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区代表取締役社長:加藤 益弘)は、タッチパネル式のパソコンを活用したインタラクティブなディテーリングシステムを開発し、2008年9月中旬より、地域や製品を限定して、パイロット的に導入しました。 これは日本初の試みで、本格的な導入は2009年の年央を予定しています。 アストラゼネカにおいて、本システムは既に米国とフランスで実施されており、期待された成果が出つつあります。日本以外にも、数カ国において今年から来年にかけて導入が予定されています。通常MR(医薬情報担当者)は、個々のドクターのニーズに合わせ、様々な資料を準備し、ディテーリングを行います。 各製品につき、文献、種々のパンフレットなどがありますが、持参できる資料には限界があります。 また、これらの資料は基本的にすべて紙ベースであるため、例えば、疾患のメカニズムや薬剤の作用機序などをイメージしにくいなどの指摘もありました。本システムは、従来のディテーリング資料に加えて CG動画やVTRなどを搭載したタッチパネル式のパソコンを駆使することにより、その場でドクターのニーズにスピーディーかつ的確に対応できるディテーリングを可能とし、MRの活動効率と質を大きく向上させる画期的なシステムです。また、本システムでは、すべてのディテーリングの履歴を残す機能があり、ディテーリングの質や成果をモニターすることができ、最適な活動計画を立案することが可能です。更に、これらのデータから全社的なマーケティング戦略の策定・修正などに役立てることもできます。当社は、医療や製品に関する質の高い情報を医師に対して効率的に提供することが、医薬品の適正使用を進め、患者さんに貢献していく上で非常に重要であると考えています。 コンテンツの充実はもとより、情報提供やコミュニケーションの方法についても更なる改善を常に目指しており、今回の新システムの導入は、非常に有益であると確信しています。

 
 iPadの存在がジョブスの頭の中にしかない2年前に、今回の発表に繋がるシステムを開発し、パイロット導入していたこと、アメリカとフランスではすでに実施していたことがわかります。
 つまり、AZにとってはスケジュールより1年遅れでようやくシステムが導入できたという発表であり、iPadの出現自体が想定外のイレギュラーな出来事であるという見方もできるのです。よく言われる私も思っていた付け焼刃でなかったことになります。
 医師への情報提供という視点での完成度は、おそらく、大塚製薬のものに劣ることはないでしょう。
 AZのシステムには、MR教育という視点は少ないようですが、これもグローバル企業と日本のオーナー企業の違いでしょうか。
 プロフェッショナルであるからには自己でスキルアップしなければならないという、どちらがよいということではなく、メジャーリーグと日本のプロ野球の違いのような違いと言えます。

 AZのシステムは充分なテスト、ブラッシュアップが行われていることと思います。一度、大塚製薬iPadシステムと見比べてみたいものですね。
 個人的かつ将来的には、大塚製薬さんのシステムの方に興味があります。
 1.MR自身のスキルアップを考慮している。>ハードコストの分配の点で、多方面の活用は有効。
 2.既製のiPadに開発しやすい言語のプログラミングということで導入・維持コストが安い。
 3.医師の受ける印象。話題のiPadであることで、興味を持ってもらえる。また、医師のiPad所有率は一般よりも高いので、共通の話題ということでMRの業務がやりやすくなる。